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真空の科学

真空と科学
著者  木ノ切 恭治 元日本真空工業会専務理事
出版社 日刊工業新聞社 定価  本体1,500円+税

書評
日刊工業新聞社から刊行されている「おもしろサイエンスシリーズ」に、日本真空工業会元専務理事の木ノ切恭治氏の筆になる「真空の科学」が登場した。業界内では久しい以前から、先端科学技術の基盤を自負してきた真空技術であるが、真空自体が目には見えない宿命のためか、世の中での認識は業界内で期待する程ではなかったように思う。様々な技術分野を一般向けに紹介する「おもしろサイエンスシリーズ」の1冊として取り上げられたことを祝したい。 この本の特徴は、真空を如何に作るかとか測るかといった真空技術の基礎について説明することを避け、真空環境の特質が如何に我々の生活を豊かにするのかという視点に重きをおいて真空技術を紹介していることである。真空の5大機能として冒頭に列記されている「差圧」、「断熱」、「蒸発」、「無酸素」、「放電」が、どのような応用に結びついているのかが具体例に則して説明されている。こんな所にも真空技術が介在しているのかと驚くような例も少なくない。真空産業に関与する多くの人達にとって有益な知識の源であり、家族・友人をはじめとする真空関係者以外の人達から発せられる「真空って何?」という質問に答えるための基礎教養として役立つ内容である。この本の内容に加えて、この本には詳しく書かれていない真空技術を応用する上での苦労話やポンプや真空計の話を、少しだけ付け加えることで、真空のエキスパートを任じる方々に対する世間の認知度が格段に向上することを確信する。 どのような読者を「おもしろサイエンスシリーズ」が想定しているか定かではないが、技術分野に全く無縁な人々をも対象にしようとすると、なお改良の余地があるように思う。真空に関する部分の記述はわかりやすく、業界用語を極力使わない方針が貫かれているのに対し、産業応用における真空以外の部品や機構についての解説では、技術を専門としない人々にとって耳慣れない用語が頻出している。図版の説明についてもこの傾向があるように思う。また、「高い真空」「低い真空」といった一般の読者を戸惑わせる用語を排除していただければ、更に一般向けの真空技術紹介として読みやすいものとなるように思う。また、先端科学やナノテクノロジー応用では、「超清浄」というような真空の機能で分類することも一般の理解を深める上で有効ではないか。 いずれにせよ、真空ジャーナルの読者の皆様にとっては、上記のような心配は杞憂である。世の中に対する真空の常識を蓄えておくことは有益であり、一度手にとってご覧になることを勧めたい。

岡野 達雄
放送大学特任教授 東京文京学習センター長 前(一社)日本真空協会(現(一社)日本真空学会)会長